探偵の仕事の七割は不倫調査
二〇〇七年(平成一九年)、「探偵業について必要な規制を定めることにより、その業務の運営の適正を図り、もって個人の権利利益の保護に資することを目的とする」ための法律、いわゆる探偵業法が施行されました。その結果、探偵業務の適正化・透明化がはかられ、業界に対するイメージも向上し、他業種からの参入や独立開業する探偵が一気に増えていきました。いわば探偵業界の一大改革が人知れず行われていたのです。当時、探偵業者の数は個人営業の事務所と法人化された会社組織を合わせて、全国で3887社(警察庁調べ)を数えていました。それが10年後には5738社と約2000社も増えています。業界内での新陳代謝はあるものの、この数字は激増と言って良く、探偵業法の施行による一般化がはかられ、探偵への調査依頼のハードルが下がったことから調査依頼が増えていった証しでもあります。依頼案件の内容を分析しますと、やはり圧倒的に不倫・浮気の調査が全体の70%以上を占めています。なぜなら依頼者たちは、パートナーの不貞の証拠を手に入れ、いざという時(離婚を決意した時)のために備えておきたいという動機から、探偵社を訪ねるケースが多いからです。たとえ夫婦と言っても、自分の夫や妻の行動を逐一調べられるはずもありません。そこでプロの登場となるわけです。詳しい実例は第一章でも書きましたが、問題の根底に横たわる夫婦間の愛情のもつれは、嫉妬と強い不信感、裏切られているかもしれないという疑心暗鬼を心に芽生えさせます。すると人は事実をはっきりさせたいという欲求が強くなり、白黒決着をつけたいと思うようになるのでしょう。私が会社を立ちあげた二〇〇三年当時は、不倫・浮気調査の依頼は、圧倒的に妻である女性からの案件がほとんどを占めていました。夫である男性からの依頼は、一割程度に過ぎませんでした。しかし、女性の社会進出が進むにつれ、夫である男性からの依頼が増加し、現在ではおよそ四割になっています。こうしたデータは、女性が外で働くようになると新しい出会いも増えて、不倫に走る既婚女性が増えた証しと言えます。この10数年で、夫婦の社会的な環境は様変わりを遂げ、いわば「愛情」を取り巻く、夫や妻の価値観も様変わりしていったのです。昔は「浮気は男の甲斐性」と言われていましたが、今や共働きが当たり前の時代となり、なりたくても甲斐性のある男性になれないのが現実です。「歌は世につれ 世は歌につれ」という言葉がありますが、長年、探偵社の立場から夫婦や不倫を見つめてきた私からすれば、不倫は時代につれて変化するものであり、世情を如実に反映していると実感しています。不倫調査は、まさに様々な人間模様、複雑な感情の坩堝といっても過言ではなく、調査する探偵たちにもタフな精神力が求められます。夫の不倫に泣いて絶望を訴える妻に、担当する探偵はどうしても同情し、正義感からついつい頑張ってしまいがちになりますが、実はそこの調査の最も注意しなければならない点です。前章では、本当にあった不倫の末路の信じられない実態エピソードを紹介しましたが、この章では不倫調査にまつわる探偵たちの仕事ぶりを中心に、笑えない失敗談、感動的な出会い、話せば長くなる探偵あるあるをご紹介します。