尾行の現実と探偵の忍耐力
探偵にとって最も集中力やモチベーションを奪うのが、いつ終わるのかまったく予想できない長時間に及ぶ尾行調査。その中でも女性のウィンドウショッピングに遭遇すると最悪だ。例えば、対象者の人妻を追いかけデパートに向かうと、探偵の誰もが嫌な予感に身震いする。まず女性のショッピング尾行は、デパートの上から下へダラダラと商品を見比べながら移動し、同じフロアでも延々と行ったり来たりの繰り返しだ。そろそろ終わりかと思えば、また最初からグルグルと回りだす。これが二、三時間続くのだが、探偵はどこで不倫相手と会うのか分からないため、少しも気をぬけない。変にべったり尾行していると店員に怪しまれる。特に婦人物の下着売り場などは、男性探偵にとってまさに鬼門だ。「お客様、奥様へのプレゼントですか?」あきらかに変態ではないかと怪しむ店員から、声をかけられることもある。それでも尾行をやめるわけにはいかず、こうした場合は女性探偵に交代することもある。買い物の尾行だけで事が終わるのならまだ良いが、時に全く予想せず二泊三日の長丁場の調査になり、最終的には北海道の最北端まで行ってしまうこともあった。国内ならまだ探偵自身の裁量で、一旦会社に戻ろうとか、レンタカーを借りようとか判断できるが、そう都合よくいかないのが海外まで尾行してしまった場合である。調査対象者は不倫疑惑にまみれた男性。妻からの依頼だった。すでに数日ほど追跡調査を行っていたのだが、まったく証拠を掴めない。依頼者である妻もある日、「明日から一週間、急に出張すると言うのです。どこに行くのか分かりませんが、どうも怪しくって……」と、妻からの情報を得た探偵は、愛人との逢瀬を楽しむとしているかもしれないと、大張り切りで張り込みから追尾の態勢をとった。案の定、夫は朝早くスーツケースを片手に自宅を出て、羽田空港に向かったのである。まずはどこまで行くか。ここからどこへ向かうのだろうか。北海道か、それとも沖縄か。探偵はどこに行っても対応できるよう、事前に各航空会社のオンライン・チケットの会員となっているので、行先が分かり次第、航空券を購入できるようになっていた。心配なのは空席が無い場合なのだが、行先さえわかれば、その前の便を確保して空港で待っていればいいし、他の航空会社の便でも、とりあえず現地に向かえばなんとかなるはず。しかし、見通しは甘かった。調査対象者である夫が向かったのは、なんと国際線ターミナル。ここで探偵はおおいに焦った。パスポートは常備しているが、要は航空券である。目的が判明したとして、すぐに買えるものなのか?答えはもちろん「買える」であるが、ただし出発当日の航空券は、すでに完売している場合が多く、空席があれば、という条件つきである。つまり問題の夫と同じ飛行機に乗れるかは運次第だった。ここまで乗り遅れては、シャレにならない。夫が乗る飛行機と行先を確認し、同じ便なんとか乗れるよう航空会社と交渉。航空会社が直前のキャンセルや、乗客が来ない場合を想定して、オーバーブッキングしているのは常識である。予想通り空席はゼロ。ただし出発直前まで待てば、キャンセル待ちの席が出てくるかもしれない。勝負は出発の二時間前まで。この時点で席が確保できなければ、あきらめざるを得ず、別の手段を考えなくてはならない。祈るような気持ちで結果を待っていたところ、eチケットが確保できたと連絡が届いたのである。「やはり普段の行いを正しくしていれば、神様はちゃんと見ていて下さるのだ」クリスチャンの彼は、本当に天を見上げて神に感謝を捧げたのであった。調査対象者である夫が向かったのは、インドネシアのバリ島。日本人に人気のビーチ・リゾートだ。羽田空港では愛人の影はまったくなく、もしかしたら、現地で合流か?ビジネス・クラスで優雅に移動する夫をにらみ、エコノミー・クラスの探偵は、これからの段取りをいろいろ考えていた。バリの空港に着くと、予想通り愛人と思われる女性が、彼を迎えにきていた。つまり愛人が先に来て、後で夫と落ち合う計画だったのだろう。探偵は、早速、小型のビデオカメラで撮影をはじめ、ホテルでいちゃつき同じ部屋に入るシーンもばっちり収めることができた。すべての苦労が報われ、気が付けばほぼ三日間、調査を続行。本社に連絡した後、気絶するように丸一日爆睡した。以上は、弊社の探偵たちから取材した事例ですが、不倫調査は忍耐と根性が必要であることを分かっていただけたのではないでしょうか。ある程度、不倫相手の住所や仕事、生活リズムなどが、事前に分かっていれば、それほど苦労はないのですが、そこまで具体的な情報を掴んでいない場合は相当苦労してしまいます。では苦労して調査する探偵は、一つの不倫案件にどの程度の時間を費やすのでしょう?当社のデータを集めたところ、次のような結果となりました。調査期間が長期になればなるほど費用もかさむので、探偵たちは徹夜続きになっても、短期間で結果を出せるよう日夜頑張っています。だから「二、三日で済む場合は一見すると簡単に解決しているように思えますが、探偵にとっては必死に対処した、過酷な時間でもあります。しかも、探偵たちで調査のために会議を行った時間は、これには入っていません。依頼者に負担のないよう真実を確保すべく、探偵たちは速やかな調査への努力を行っていることが伝わってきます。