履行の確保と後日の再紛争を避けるために示談書を作成する
・示談書はかならず作成する示談は、すでに述べたとおり和解契約の一種ですから、口頭での約束でもその効力はあります。しかし、後日、そんな約束はしていない、といったトラブルを避けるためには、示談書を作成しておくとよいでしょう。よく、貸金の返済などで、あと1か月まってくれ、と借主に頼まれ了解することがあります。これも、一種の示談ですので、文書にしてもらっておくといいでしょう。こうした人は往々にして、次の支払日がきてもまた、同じ手口で引き延ばそうとするものです。文書にしておけば、そういう場合のプレッシャーにもなります。示談書は、お互いが合意した約束事項を掲載した書類です。法定の書式というものはありませんが、トラブルの当事者はこの示談書の契約内容に拘束されますから、示談の対象と内容をお互いが確認する意味でも、誤解のない内容とするべきです(示談書のサンプルは16・1ページ参照)。また、示談は一種の和解契約書ですので、契約日、住所・記名押印は間違いないように確認してください。・履行の確保のため公正証書にすることや保証人を立てるなどの手段を講じる示談書の作成では、その内容のみにとらわれがちですが、履行(貸金であれば弁済)をいかにするかという視点が重要です。そのためには、示談書を公正証書にしたり、保証人を立ててもらったり、不動産に抵当権の設定をする、などの履行確保の条項を示談書の中に入れておくことです。すでに述べたとおり、示談書を公正証書にすることにより、金銭債権の場合には訴談することなく、強制執行が可能となり、また、連帯保証人がいるときには、相手方が期日に支払わない場合には、直接全額を連帯保証人への請求が可能です。もっとも、こうした履行の確保の約束をするには、相手あるいは保証人の承諾が必要です。・錯誤の問題には注意する示談は契約である以上、各種の法令を遵守したものでなければなりません(53ページ参照)。特に、示談契約で問題となるのが錯誤(民法95条)です。錯誤とは、表意者(示談の当事者)に認識の誤りがあったために、真意と異なることに気がつかないでした意思表示をいい、この場合、契約を取り消すことができます。具体例は、交通事故で示談が終わった後に後遺症が出て、その後遺症に伴う損害賠償の請求ができるかどうかが争われたケースがあります。通常、示談書には、「その余の請求は以後、一切しない」等の条項を入れてあり、一般的には示談のやり直しはできないとされています。しかし、最高裁判所は錯誤を理由に、示談後の後遺障害の損害賠償請求ができる旨の判決(昭和43年3月15日)をしました。⭐︎ポイント気になることがあったら、示談書に盛り込むか、除外するかを定めておくこと。