刑事事件の告訴がらみで交渉する場合もある
・起訴を免れたい一心で交渉を急いでくる通常は、債権者から示談交渉を申し入れ、債務者が渋々これを受け入れるというスタイルで示談交渉は開始します。ところが、債務者の側から、急いで示談交渉したいと言ってくるケースがあります。それが刑事事件のからんだ場合です。一番多いのは、交通事故の加害者が、刑事事件で起訴されるかどうかという立場に立たされている場合です。交通事故の加害者を起訴する(刑事裁判にかける)かどうかは、検察官の判断により決定されます。その際、被害者との間で示談ができているかいないかは、大きな酌量事由の一つとなるからです。加害者は、不起訴ないしは起訴猫予にしてもらえれば刑事裁判にかけられることはありませんので、示談交渉を急ぐのです。もちろん、交通事故に限ったことではありません。比較的罰則の軽微な事件では、起訴か不起訴の決定に、示談の可否が大きなポイントになります。そこで、示談を成立させ告訴を止めてもらったり、取下げてもらったりする場合もあります。なお、性犯罪は以前は親告罪とされていましたが、改正用法が平成29年7月13日に施行され、皆がなくても加害者を起訴することができるようになりました。加害者の誠意の有無で対応を決める前にも述べたとおり、いったん、示談を締結すると、後になって予想もしなかった事態が出てきても、原則として示談のやり直しはできないことになっています。交通事故の例で言いますと、医師の話では2か月もすれば退院できるでしょう、と言われたとしても、実際に退院できるのは2か月後とは限りません。予想外に長引くこともありますし、後遺症が発生しないとも限りません。被害者にとっては、あわてて示談することはよい結果を招きません。ただ、それだと加害者が気の毒だというケースもあるでしょう。その場合には、示談書の代わりに、「嘆願書」を書いて渡せば、検察官の心証もよくなるでしょうから、それで済ますことです。しかし、見方を変えれば、加害者の側から示談をしつこく言ってくることは、被害者にとっては示談を有利に進めるいいチャンスでもあるわけです。どうしても起訴されることを避けたい加害者は、被害者の要望をのんでくれる可能性が高いということです。保険会社にまかせっきりで病院にも見舞いにこないで、検察官に言われてあわてて示談を言ってくるような不誠実な相手に対しては、このチャンスを活かして、有利な条件で交渉を進めることも一策です。⭐︎ポイント相手の弱みはこちらの強みとなると心得ること。