示談での解決が困難なトラブルもある
2025/09/05
・なにがなんでも示談という考えは問題相手に落度があった場合、相手が悪いのだから、自分が言うとおりに示談するのが当たり前だと、考えがちです。しかし、思いどおりにはなかなかならないと考えておくべきです。たとえば、100万円の貸金の返済が滞っている場合を考えてみましょう。約束の日に返済がないので、請求に行ったら、相手は失業して、当分返済する状況にないと言ったとします。約束だから、今すぐに返せと迫っても、返せないの一点張りです。これでは平行線で、示談交法もへちまもありません。返さないからといって、勝手に家捜しをしたり、相手の預金通帳を持ち出して貯金をおろすなどの行為は、いくら金を貸しているからといってもできないのです。こうしたことは犯罪になります。今後、どう返済してもらうかを、お互いが交渉するしかないのです。場合によっては、時間を置いて親や親戚から借りて返済するという話になるかもしれませんし、また、分割にすることで話し合いがつくこともあるかもしれません。しかし、それとても、相手が約束を守ることが前提となります。・示談では解決が困難な問題もある ①主張が真っ向から違う場合トラブルの当事者同士の主張が真っ向から衝突している場合や、相手方に誠意がなく交渉が難航して、時間だけがいたずらに経過している場合などでは、示談の交渉を断念する必要があります。こうした場合には、調停や訴訟などの法的手段に訴えることになりますが、その見極め時が重要です。通常は、10回程度話し合い、進展がない場合には、それ以上話し合っても仕方がないので、調停や訴訟などの手段によることになります。②妥協できないトラブルの場合トラブルによっては、示談は困難なものがあります。もともと、示談は裁判所の手を借りずに、お互いがある程度譲歩しあい、トラブルを解決する手段ですから、土地の境界紛争のように譲歩することが難しく白黒の決着をつけなければならない問題については、なじまないものと思われます。もっとも、トラブルとなり調べたところ境界石が出てきたなどで決着することもありますが、これは示談の問題ではなく、事実が確認されてトラブルがなくなったというだけのことです。@相手が応じない場合(暴力団との交渉など)相手方が示談交渉に一切応じない場合や相手方が暴力団等で交渉することが危険な場合には、交渉の代理人に弁護士を頼むなり、訴訟などの裁判所を通した解決法を考えた方がよいでしょう。⭐︎ポイント相手方にも相手方の言い分がある。
示談の交渉に当たっては感情的にならないこと
2025/09/05
独りよがりの判断や感情的にならないことトラブルが生じた場合、自分の主張が一方的に正しいと思いがちです。もちろん、こうした場合もあるでしょうが、当然ながら相手がいることですし、相手には相手の主張(言い分)がある場合が多いのです。独りよがりの主観だけで判断していると、相手を説得することはできず、紛争がいっそうエスカレートしないとも限りません。そこで、相手方との話し合いの前に、トラブルの実態を整理しておくことが必要です。第三者あるいは相手方の立場から冷静にトラブルを考えてみるのです。そうすれば、トラブルの原因も客観的に認識ができ、解決のために障害となっている部分、あるいは解決のための妥協点も出てきます。主観(思いつき)を排除するには、第三者の意見や専門家の意見を聞くことも重要です。場合によっては、法律書を読むことも必要でしょう。意外と素人判断では、正しいと思っていても間違っている場合もあります。こうして、知識を得、そして、相手方にその根拠を示して説得することにより、いたずらな議論の応酬は避けられます。また、交渉では感情的にならないことが重要です。感情的になって、つい、「お前が悪いんだ」と一方的に怒鳴る人もいます。自分が正しいと思っているのに反論されると、つい怒鳴りたい気持ちも分かりますが、相手方によっては「売られた喧嘩は買おうじゃないか」とお互いが感情的になり、紛争がよりエスカレートする場合もありますので、得策とは言えません。・最大の問題は示談した内容を相手が守ってくれるか示談では、通常、相手方との交渉→妥協↓示談書の作成↓示談の内容の履行といった経緯をたどります。示談による解決で、当事者が気をつけなければならないのは、本当に相手方が肩頼できるかということです。示談は和解契約としての効力がありますが、示談の内容どおりの履行がない場合に、自力による債務の確保(相手の物を勝手に持ち出して換金するなど)はできません。訴訟が必要になります。貸金の返済のトラブルを例にとれば、訴訟をして勝訴の判決を取った後、裁判所や執行官に依頼して相手方の財産に対して強制執行をして回収するしかないのです。相手方にその財産さえない場合には強制執行もできません。つまり、相手方に誠意がなければ、示談書は絵に画いた餅と同じになりかねないということです。誠意がなく、時間を稼ぐために、示談に応じている人に対しては、最初から訴訟という手段に訴えておいた方が時間の節約になり得策なのです。⭐︎ポイント示談では相手に誠意があるかどうかを、まず判断すること。
示談は費用がかからないというメリットもある
2025/09/05
・示談は費用がかからない話し合いにより示談が成立するのであれば、調停費用、訴訟費用、弁護士費用などは一切かかりません。もちろん、弁護士の相談料、あるいは、交渉を依頼した場合には費用はかかりますが、訴訟等の費用にくらべれば、格段に安くて済みます。たとえば、200万円の代金の支払いでトラブルとなったとします。売主は当然、全額を請求しますが、買主の経営状況が悪く、代金支払いを半額(100万円)にして欲しい旨の申し入れがあったとします。こうした場合、この申し入れをけって、訴訟により債権回収をするとしたら、費用はいくらになるのでしょうか。まず、訴訟では申立時に訴状に印紙を貼って納めることが必要です。これは訴状に記載された相手方(被告)への請求金額(訴訟価額=略して訴額)で決まります。訴額が200万円の場合には、1万5000円の収入印紙が必要です。また、訴訟は通常、弁護士に依頼しますので弁護士費用が必要です。弁護士費用は着手金(事件の受理時)と報酬金(裁判で訴した時)があり、各弁護士が個々に決めますが、平成16年3月31日に廃止された報酬規定によれば、訴額が200万円のときは着手金が8%(16万円)、勝訴した場合の報酬金16% (32万円)の合計48万円が必要です。この他にも、弁護士に対して日当や交通費の支払いが必要となる場合があります。弁護士費用については、依頼前に相談してください。このように訴訟となれば、最低でも50万円程度の費用が必要となります。この例では、判決までに、さして日時がかかるとは思えませんが、トラブルによっては判決までに1~2年かかるケースも少なくなく、その間、お金は支払ってもらえないことになります。さらに、相手が判決どおりの支払いをしない場合には、差押え・強制競売といった法的手段により債権回収をしなければなりません。これにも費用がかかり、その間の時間的ロスなどもあります。こうしたことを考えると、訴訟よりも相手との話し合いの内容次第では、たとえば一五〇万円で示談した方がよいということになります。考え方としては、本例で言えば、代金額から訴訟等で必要な費用を差し引いたものより金額が多く、かつその金額でお互いが合意できるのであれば、示談した方が得ということになります。ただし、必ず支払ってもらうための方策も考えておく必要があります(64ページ参照)。⭐︎ポイント示談か訴訟かは、経済的なメリットも含めて考える。
示談は穏便に早期解決ができるというメリットがある
2025/09/05
・示談は穏便な解決法でトラブルによっては短時間で解決する示談はお互いが譲歩しあいトラブルを解決するというもので、訴訟と違い、お互いが納得しての和解契約であり、穏便な解決法と言えます。訴訟による判決では、お互いの主張の白黒をはっきりさせますが、示談では、お互いが譲歩しあう場合が多く、こうした解決によりお互いの面目も保つことができ、以後の人間関係もスムーズにいく場合もあります。特に、事業などをしていて、今後も取引したい場合などでは、事を荒立てることが得策でない場合もあります。こうしたことがら、トラブルの多くは示談で解決されています。交通事故を例にとれば、その約9割は示談だと言われています。また、トラブルを早期解決するには示談が適しています。トラブルが生じた場合、通常は当事者間で、まず話し合いがもたれますので、こうした話し合いにより示談が成立するのであれば、当然、時間も短時間で済むということになります。つまり、この話し合いの段階で、お互いが譲歩しあい解決できれば、紛争解決としてはベターだと言えます。トラブルを抱え、問題が長期化すると、精神的にも疲れるものです。・示談には問題点もある 示談に問題がないわけではありません。相手が応じないのに、なにがなんでも当事者の話し合いで決着させることはできません。後述しますが、お互いの主張に大きな隔たりがあり話し合いが長期に及びそうな場合などでは、調停や訴訟といった法的手段も視野に入れて示談の交渉に望むことも重要です。10回程度交渉しても解決の糸口がつかめなければ、訴訟などの手段を考えるべきでしょう。また、示談で解決するためには、やはり、ある程度の知識を持つことが必要です。法律上はどうなっているか、また裁判例はどうなっているかなどの知識が皆無ですと、紛争当事者がお互いに言いたいことを主張するだけで、示談に漕ぎ着けることは困難でしょう。また、法律などの知識のある人が有利となる示談とならないとも限りません。こうした場合は、専門家(弁護士)に取りあえず相談することをお勧めします。都道府県などの自治体では無料の法律相談所を開設していますし、また、各地の弁護士会では有料の法律相談に応じています。その他にも、相談に応じている専門機関は多くあります(第3章・17ページ以下参照)ので、こうした相談所を活用すべきです。また、示談は判決ではありませんので、どちらかというと軽く見られがちです。特に示談書がない場合には、言った言わなかったとの水掛け論となりがちです。こうした後日の紛争を避けるためには必ず対象の紛争を明示した示談書を作成し、場合によっては公正証書にしておくことが重要です。⭐︎ポイント話し合いで合意したことはその内容を示談書にしておく。
「示談」とはなにか
2025/09/05
・示談という言葉は法律にはない示談という用語は法律にはありません。裁判外で当事者間に成立した和解契約のことを一般的に示談と呼んでいます。たとえば、交通事故が起きて損害賠償の問題が生じた場合、売買の代金が支払われない場合、あるいはアパートの居住者が定められた期日に立ち退かないといった場合などに、こうしたトラブルを解決するために、当事者間で話し合い、お互いが譲歩しあったりして、トラブルを解決する手段が示談です。・示談にはどういう効力があるか示談は和解契約の一種と考えられていますので、契約としての効力があります。いったん示談が成立すれば、後になって示談した内容を変更することはできません。示談が成立すれば、示談の内容に従って双方が権利や義務を有することになりますが、その約束を義務者が履行しない場合には、その示談書を証拠として訴訟を起こし、勝訴判決を得て、強制執行をすることができます。なお、示談の内容を公正証書にしておけば、金銭を目的とする義務が内容である場合には、判決を得なくてもこの公正証書により強制執行をすることができます。ただし、示談の内容第では、示談は無効あるいは取消しができる場合があります。以下がそのケースです。①公序良俗違反(民法90条)ー1賭博の掛金を支払うなどの示談は、公序良俗に反して無効となります(支払う必要がない)。②強行規定に違反する場合ー強行規定とは、法文上の規定に反する内容の契約をしても、無効となる規定のことです。たとえば、土地や家を借りている場合に、地主や家主の請求があれば即座に立ち退くなどの契約は無効とされます。③詐欺・強迫による場合!詐欺による例としては、実際には建物が存在しないのに、相手にだまされて存在すると思って和解した場合などで、この場合、和解契約を取り消すことができます。強迫による場合も同様に取り消すことができます(民法96条)。④錯誤があった場合|示談の前提に錯誤(表意者の認識の誤り)があるときは取り消すことができます(民法95条)。例としては、交通事故の人身事故で示談が成立したが、その後に後遺症が発生した場合などです(詳細は後述、65ページ参照)。⑤通謀虚偽表示による場合|刑事事件がらみで、示談ができていないのに、罰を軽くするために被告人の親などに頼まれて形だけ示談が成立したことにする場合があります。こうした場合は通謀虚表示となり、示談は無効です。⭐︎ポイント示談する場合には法令に違反する内容になっていないかどうかを注意する。
示談についての考え方
2025/09/05
示談の交渉をする場合に、一方的に自分の主張ばかりしていたのでは問題は解決しません。訴訟では、紛争の趣旨(どういう解決を望むのか)、および紛争の実情を訴状に記載が必要で、証拠書類などを検討して、裁判所が判断します。こうした訴訟に準じた考え方をすることにより、自分の主張だけでなく客観的に紛争が見えてきます。そのためには、弁護士などの専門家に相談して意見を聞くことも重要です。
早わかり・示談と示談手続きの流れ
2025/09/05
示談のメリット①費用がかからない紛争解決のために訴訟をすれば、訴訟費用(手数料など)がかかります。その点、示談は相手との交渉で済むことですから費用はかかりません。②弁護士費用がかからない訴訟は通常、弁護士に依頼します。しかし、示談では、一般的には、弁護士に交渉の依頼をする場合は少ないでしょう。③相手とのしこりが比較的残らない隣近所や取引先とのトラブルでは、紛争解決後も付き合っていくことになる場合が多いことから、穏便な解決が望ましい場合があります。訴訟により白黒をはっきりさせるよりも、お互いが話し合いにより譲歩して示談により紛争を解決した方が、以後のことを考えると良策の場合があります。④解決までの時間がケースによっては短時間で済む訴訟は半年程度で判決が出るケースが多いようですが、相手が争う場合には、1年を超えるものも少なくありません。こうしたケースでは、示談で解決できるなら示談による解決を選ぶ方が有利です。
示談するということはどういうことか
2025/09/05
示談とは、紛争の当事者が話し合いにより、裁判所等の関与なしに紛争を解決する手段です。話し合いがまとまると、通常、後日の紛争を避けるために示談書が作成されます。示談書の作成では、問題点をすべて盛り込み、あいまいな内容としないことが大切です。
少額訴訟とは
2025/09/05
■少額訴訟の特徴少額訴訟は、文字通り60万円以下の少額の金銭の支払いを求める場合の訴訟制度の特則で、原則として1回の審理で判決が出る簡易・迅速な制度です。少額訴訟手続きは、簡単で弁護士に依頼しなくても自分でできます。その特徴には、以下のものがあります。①60万円以下の金銭の支払いをめぐるトラブルについてのみ利用できる②原則として、1回の期日(審理)で双方の言い分を聞いたり、証拠を調べたりして、直ちに判決の言渡しがある。③証拠書類や証人は、審理の日にその場ですぐに調べられるものに限られる。④裁判所は、請求を認める場合でも、分割払い、支払猶予、遅延損害金免除の判決を言い渡すことができる。⑤少額訴訟判決に対する不服は、同じ裁判所に異議申立ができるだけで、控訴することはできない。■少額訴訟の活用少額訴訟は原則として、相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てます。裁判所には定型の少額訴状用紙や訴えられた人が用意する定型答弁書用紙が備えつけられていますので、書類はこれらに記載するとよいでしょう。なお、相手方(被告)が通常訴訟による審理および判決を求めた場合には、通常訴訟に移行します。また、少額訴訟には利用の回数制限があり、一人が同じ裁判所で利用できるのは年間10回までです。また、少額訴訟手続きでも、話し合いで解決したい場合には、和解という方法があります。
おおいに活用したい各種の裁判外手続き
2025/09/05
・内容証明郵便の最大限活用法内容証明郵便が来たと言って、知り合いの弁護士事務所に駆けつける人もいます。でも、内容証明便というのは、単なる手紙です。ただ、その手紙の内容を郵便局で証明してくれるという効果があります。そのため、訴訟になった場合、〇〇の通知を出したという主張を裏付ける強力な証拠となります。通常は、〇年〇月〇日に確かに配達したという事実を明らかにするため、配達証明付きの郵便で出されます。請求したという事実が必要な場合(支払期限の定めのない金銭貸借など)、または通知することが法律の要件となっている場合(借家期間満了により明渡しを求める場合など)には、内容証明郵便で出すことが不可です。なお、時効期間が接近している場合、時効の完成をストップさせるためにも、内容証明郵便による催促は有効です。6か月間は時効の完成が予されます(1回限りです)。また、トラブル解決の交渉を始めるに当たって、内容証明郵便でこちらの主張をぶつけることも専門家のよく使う手です。内容証明郵便を受け取って驚き、耳を揃えて金を返しにきたという話もあります。これは本来の効果外の副次的効果でしょうか。なお、第2章でも内容証明郵便の出し方について解説しますので、86ページ以下を参照してください。・供託手続きはこんな場合に使う地主や家主が死亡し相続でモメているので、誰に家賃や地代を支払っていいかわからない場合、家主や地主が行方不明の場合、あるいは明渡しでトラブルとなり、家主や地主が家賃や地代を受け取らないなどという場合、放っておくと家賃や地代不払いで、債務不履行の責任を問われ、解約される原因となります。もちろん、家賃や地代に限らず、債権者が何らかの理由で弁済を拒否する場合にも供託は利用できます。このような場合には、家賃や地代に相当する金額を供託所に供託しておけば、債務不履行の責任を免れます。弁済と同じ効果があるわけです。これを弁済供託といいます。供託の手続きは、法務局、地方法務局、その支局または出張所(一般に登記所といわれる所です)へ行って、そこに備えてある供託書(OCR用紙)に必要事項を記入し、現金を添えて差し出します。供託所は、家主や地主に送付されます。なお、前にもちょっと触れましたが、仮差押えの保証金も供託が必要です。また、公職選挙法により候補者の乱立を防止するために供託金を積むことが義務づけられています。この供託金は、一定の票数を獲得できないと没収されます。⭐︎ポイント支払うつもりなのに受領を拒否された場合には必ず供託を。
債権回収では「支払督促」は有効な手段
2025/09/05
・金銭の請求をめぐるトラブルに利用できる裁判所の手は借りるものの、費用は安く、簡単で、迅速な債権回収に関するトラブル解決の方法があります。それが支払督促制度です。この手続きを利用できるのは、金銭や有価証券などを請求する場合に限られていますので、借家の明渡しとか不動産登記の請求などでは利用できません。支払督促の最大のメリットは、管轄の簡易裁判所に申立をすると、申立の趣旨の記載から請求に理由がある言い分と認められれば、それが本当かどうか債務者の言い分を聞くこともせず、証拠調べもせずに、支払督促を発令してくれることです。もちろん、債務者にも言い分がある場合もありますので、債務者に支払督促が送達されてから、2週間以内に異議を申し立てることを認めています。異議が出されると、通常の訴訟へ移行することになります。債務者から異議の申立がなければ、債権者はそれから30日以内に、仮執行官言を付けてくれるよう申立をします。仮執行宣言が付けられると、債務名義となりますので、強制執行ができることになります。ただ、仮執行宣言付支払督促も債務者に送達され、債務者はこれに異議を申し立てる道が残されています。 ・債務者からの異議申立が出るかどうかが問題 支払督促が効果を発揮するかどうかのポイントは、債務者が異議申立をするかどうかの一点にかかっています。米屋、酒屋の代金などは異議が出ないのが普通です。異議が出されれば、通常の訴訟へ移行するわけですから、それなら支払督促をせず、いきなり訴訟を起こせばよいことになります。債務者が争う気配がない場合に有効な方法と言えます。債務者は、異議申立には何ら理由を述べる必要はなく、時間稼ぎのため、あるいは分割払いの和解をするために異議を申し立てるケースも見られます。なお、債務者の主張も聞かずに支払督促を発令するわけですから、異議を申し述べる機会の保証が久かせません。そのため、送達が可能なことが要件で、裁判所の掲示板等に掲げて行う公示送達は許されておりません。手数料は、通常の訴訟に必要な金額の半分で、収入印紙を貼って納めます。⭐︎ポイント支払督促の申立先は債務者の住所地を管轄する簡易裁判所。
法的手段による最終解決は「強制執行」
2025/09/05
・強制執行の申立をするまでの手続きは分割払いのパソコン代金を払わないので、売主が買主のところへ行って、いったん渡したパソコンを持ち帰るーこのような強制手段は自力救済といって、わが国では許されておりません。国または国の機関が、権利者であることを認めたもの、たとえば判決書などがあって、初めて国の力を借りて強制執行はできるのです。この判決書などを債務名義といい、調停調書、和解調書、仮執行宜言付支払督促、執行証書(執行認諸文言付公正証書)などがこれに当たります。ただ、この債務名義のみでは強制執行はできません。この債務名義に執行力がある旨を公証してもらう必要があります。これを執行文といい、訴訟記録のある裁判所、公正証書を作った公証人役場に執行文付与申請をします(少額訴訟の判決、仮執行官言付支払督促の場合は不要)。債務名義は、これを債務者に送達しなければなりません(判決などは職権で送達されます)。いきなり強制執行というわけにはいかないのです。送達は、裁判所の執行機関である執行官に送達申請書を出して送達してもらい、後日、送達証明書をもらいます。この送達証明書を添付して、強制執行申請書を送達機関(不動産の場合は所在地の裁判所、それ以外は執行官室)に提出します。なお、執行に要する費用は予納が必要です。 ・強制執行にはどんな方法があるかどのような財産に対して強制執行をするかで、強制執行の申立先が異なります。不動産の場合には、不動産所在地の裁判所が執行裁判所となります。申立があると裁判所は、競売開始決定をし(登記簿に記載され差押えの効力を持つ)、競売を行うことになります。家財道具、機械、商品などの動産の場合の執行機関は、裁判所の執行官です。現金はその場で押さえますが、それ以外の物は競売にかけます。債務者に預金や貸金や売掛金などの債権があれば、これも差し押さえることができ、裁判所の差押命令によって行われます。差押命令が出ますと、差押債権の債務者(第三債権者という。給料債権なら事業主)は、債務者に対して支払うことを禁止され、債権者による取立てが指示されます。また、債権については、転付命令という方法もあります。債務者の持っている債権を、直接債権者へ移してもらう方法です。⭐︎ポイント財産の種類により強制執行の方法は違う。