不倫調査とプロ意識
2025/09/05
不倫調査は探偵たちに過酷な状況を強いることが少なくありません。それはまさに理不尽といってもいいような現実が次から次に襲ってくる、まるで悪夢の中にいるようなものです。しかし、どんな逆境にあろうとも調査をあきらめて中断することなどあり得ないのが、探偵を職業とする者のプライドです。想像を絶する状況に陥っても、探偵たちは強靭なプロ意識を胸に、いかなる困難にも打ち勝とうと奮闘しています。ここで、日夜力を尽くして調査に奮闘する探偵たちが、実際に経験した事例をご紹介しましょう。
探偵の仕事の七割は不倫調査
2025/09/05
二〇〇七年(平成一九年)、「探偵業について必要な規制を定めることにより、その業務の運営の適正を図り、もって個人の権利利益の保護に資することを目的とする」ための法律、いわゆる探偵業法が施行されました。その結果、探偵業務の適正化・透明化がはかられ、業界に対するイメージも向上し、他業種からの参入や独立開業する探偵が一気に増えていきました。いわば探偵業界の一大改革が人知れず行われていたのです。当時、探偵業者の数は個人営業の事務所と法人化された会社組織を合わせて、全国で3887社(警察庁調べ)を数えていました。それが10年後には5738社と約2000社も増えています。業界内での新陳代謝はあるものの、この数字は激増と言って良く、探偵業法の施行による一般化がはかられ、探偵への調査依頼のハードルが下がったことから調査依頼が増えていった証しでもあります。依頼案件の内容を分析しますと、やはり圧倒的に不倫・浮気の調査が全体の70%以上を占めています。なぜなら依頼者たちは、パートナーの不貞の証拠を手に入れ、いざという時(離婚を決意した時)のために備えておきたいという動機から、探偵社を訪ねるケースが多いからです。たとえ夫婦と言っても、自分の夫や妻の行動を逐一調べられるはずもありません。そこでプロの登場となるわけです。詳しい実例は第一章でも書きましたが、問題の根底に横たわる夫婦間の愛情のもつれは、嫉妬と強い不信感、裏切られているかもしれないという疑心暗鬼を心に芽生えさせます。すると人は事実をはっきりさせたいという欲求が強くなり、白黒決着をつけたいと思うようになるのでしょう。私が会社を立ちあげた二〇〇三年当時は、不倫・浮気調査の依頼は、圧倒的に妻である女性からの案件がほとんどを占めていました。夫である男性からの依頼は、一割程度に過ぎませんでした。しかし、女性の社会進出が進むにつれ、夫である男性からの依頼が増加し、現在ではおよそ四割になっています。こうしたデータは、女性が外で働くようになると新しい出会いも増えて、不倫に走る既婚女性が増えた証しと言えます。この10数年で、夫婦の社会的な環境は様変わりを遂げ、いわば「愛情」を取り巻く、夫や妻の価値観も様変わりしていったのです。昔は「浮気は男の甲斐性」と言われていましたが、今や共働きが当たり前の時代となり、なりたくても甲斐性のある男性になれないのが現実です。「歌は世につれ 世は歌につれ」という言葉がありますが、長年、探偵社の立場から夫婦や不倫を見つめてきた私からすれば、不倫は時代につれて変化するものであり、世情を如実に反映していると実感しています。不倫調査は、まさに様々な人間模様、複雑な感情の坩堝といっても過言ではなく、調査する探偵たちにもタフな精神力が求められます。夫の不倫に泣いて絶望を訴える妻に、担当する探偵はどうしても同情し、正義感からついつい頑張ってしまいがちになりますが、実はそこの調査の最も注意しなければならない点です。前章では、本当にあった不倫の末路の信じられない実態エピソードを紹介しましたが、この章では不倫調査にまつわる探偵たちの仕事ぶりを中心に、笑えない失敗談、感動的な出会い、話せば長くなる探偵あるあるをご紹介します。
妻の爆弾ハイで人生崩壊までの末路
2025/09/05
夫婦お互いに何もかもを知っているように思えても、意外な秘密を隠していることもある。一つ屋根の下に暮らしているのだから、知らないことはないはずだと信じ込むのは危険だ。というのも探偵という職業は、夫婦の秘密を知るその瞬間を目の当たりにすることが多い。これもまさにその代表的な事例といえるであろう。それから夫からの依頼だった。50代のいかにも真面目そうな風貌の、依頼者であるノブヒコさんは黒縁の眼鏡をかけ、きちんとネクタイを締めたサラリーマン。私たちを前に、思いつめた表情でこう話し始めた。「実は、最近妻がかがわしいアルバイトを始めたような節があるのです」人妻の風俗アルバイトは今やそれほど珍しくはないが、夫が病気だったり、ギャンブルで借金を作ってしまったりなど、その裏にはやむにやまれぬ経済的事情が隠されているのだ。しかし、今回はそんな問題は浮かんでこない。ノブヒコさんと妻との間には、18歳の息子がおり、反抗期もなく絵に描いたような仲のいい家庭だった。慎ましくも明るい家庭に、不審な出来事などあるはずがなかった。偶然、妻の手帳を見るまでは……。それはある晩のことだった。妻がキッチンで夕飯の支度をしている時、ノブヒコさんはリビングのテーブルに、花柄の手帳があることに気づいた。その手帳を何気なく開くと、スケジュール表に小さな文字で時刻と、「昼顔女性」という名称が書かれていた。「『昼顔女性』? 昼顔……昼顔……あっ!?」と、ノブヒコさんの脳裏にあるお店の看板が浮かんだのである。それは営業でよく訪れる繁華街の雑居ビルに揚げられていた風俗店の名前と同じだった。「もしかして、と思いました。うちの妻に限って、そんなはずはないのですが、疑い始めると悪い方にばかり考えがいってしまう。私は真実が知りたいのです。調査をお願いします」と、ノブヒコさんは妻の手帳を見てしまった日の悪夢を思い起こし、苦しそうに目を伏せた。現在、妻の年齢は50歳だという。失礼ながら、そんな年齢で風俗店のニーズがあるのかどうか私は疑問だった。早速、探偵たちを集め、調査の段取りを組むことになり、その席で私の疑問を問いかけてみたところ、探偵の一人がポツリと言ったのである。「熟女って意外に人気あるんですよ。若い子と違って、お金じゃなく趣味で風俗に勤めている人が多く、サービスの本気度が違いますから……いや、これは熟女好きの友人に聞いた話ですよ。僕のことじゃないですから」なるほど、若ければ良いというものではないということが、私の認識を新たにした。――三カ月の調査の末に判明した事実――妻の行動を24時間、調査したところ、やはりノブヒコさんの予想通り、週に三日ほど繁華街の風俗店で日中にアルバイトしていることが分かった。妻の行動は以下の通りだった。朝七時過ぎ、家族で朝食を食べてから、夫と息子を送り出すと、掃除、洗濯と家事をこなし、午前十時に慌ただしく家を出る。外見は決して派手ではなく、どこにでもいる専業主婦のいで立ちで駅に向かった。ただ大きなサングラスとマスクで素顔を隠し、身バレしないように気を遣っているようだった。繁華街の風俗店に着くと、夕方五時まで妻はずっと店内から出てこなかった。その間、多くの男性が店に出入りしていたので、ずっとアルバイトに精を出していたと思われる。勤務時間が終わると、平然と帰って行った。夕方六時頃、自宅の最寄り駅のスーパーに立ち寄り、手際よく買い物を済ませ帰宅。夜七時頃、夫や息子が帰宅する頃には夕食の準備も整い、ベランダに干した洗濯物も取り込んで、妻は完璧に主婦の顔に戻っていた。きっとこうした毎日をこれまで送ってきたのであろう。その風俗店のHPには、女性たちの写真が掲載されていた。そこには、目元を隠しているものの、言われてみれば、ノブヒコさんの妻らしき女性の写真があった。この店のHPに出ている写真は50代の熟女ばかり。国内でも有名な熟女専門の風俗店らしい。そこで熟女好きを思わず白状してしまった探偵が調査を行った。サービスの内容は、ここでは具体的に書くことが憚れるが、どうやら本番は厳禁。ただし意気投合した場合は、その限りではないようだ。後日、探偵が依頼者のノブヒコさんに、妻が働いている風俗店のサービスの内容を説明した。「やはり、そうでしたか……」と、そう心の底から絞り出すように話すノブヒコさんは、今にも泣き出しそうだった。この春から息子は大学に通い始めたが、成績優秀だったため奨学金をもらうことができ、妻が経済的な理由からアルバイトをする要因は何も見当たらないそうだ。妻は短大卒業後、役場の事務員として働きだし、26歳の時に今の夫であるノブヒコさんと知り合って結婚。その時、妻は処女だったが、次第に女としての体に目覚めていったという。もしかしたら、男性経験がノブヒコさんしかない妻は、ひそかにSEXへの好奇心を抑えられなくなり、風俗店で働くことを決心したのではないかと私は考えていた。さらに他の大きな原因があるはずだと、私はこう切り出した。「もしかして、夫婦の間でSEXがなく、奥さまは女性として満たされていなかったのではありませんか?」それは図星だった。妻とは息子ができてからずっとご無沙汰で、いつしか体に触れることさえなくなったという。なぜSEXレスになったのかを質問すると、夫からはこんな答えが返ってきた。「妻に欲情しないからです」風俗店でのアルバイトは、長年にわたるSEXレスによる、妻の欲求不満が蓄積した結果だったのかもしれない。ここ数年、妻の不倫が急増しているが、その原因として挙げられるのがSEXレスである。意外に男性は女性にも性欲があることを知らない。しかも、その欲望を抑えられないと、不特定多数の男性と関係を持ち、男性以上に抜き差しならない状況を生じさせ、夫婦関係を根底から壊してしまうのだ。今回の事案は、夫の心をズタズタに傷つけてしまったのかもしれない。この後、どのような決断を下すのかは、夫であるノブヒコさんの考え次第であるが、私はなんとかやり直しの道を探って欲しいと願っていた。――ノブヒコさんと夫婦の末路――その後、アフターカウンセリングの一環で弊社のスタッフが連絡を入れたところ、結局、離婚の話し合いをすることになったという。聞けば、夫は風俗店で働いている事実を妻に告げ、それでもやり直しをしたいと話したのだが、妻は逆にほっとしたのか、離婚したいと申し出たのだった。「私は良い妻でなければ、家庭の幸せを求めるタイプでもないのがよく分かったの。これからは、心の中で抑えていた本当の自分がやりたいことをやって生きていきたい……」結婚して平凡な家庭を営み、傍から見れば幸せな、どこにでもいる家庭の良き妻、良き母を演じることに、妻は疲れ果てていたようなのだ。風俗店でのアルバいとは、単なるきっかけにすぎず、そのことによって、一度しかない人生、自分の思う通りに生きるべきと考えた妻を、今さら引き留めることはできなかった。夫婦の価値観がズレてしまっては、為す術はない。幸い一人息子も大学生となって、物事を理解できる大人となっている。気の毒なのは夫のノブヒコさんであるが、これもまた運命。彼もまた自分自身の心の声に耳を傾け、後悔のない人生を歩んで欲しいものだ。これまで私が見てきた、不倫をめぐる夫婦の実話の数々、いかがでしたでしょうか?ともすれば不倫と浮気など、他人事のように感じている読者の方もいらっしゃると思いますすが、本文に登場した人々も、探偵が介在するほどの大ごとになろうとは誰も想像すらしていませんでした。「悪事、千里を走る」のたとえのごとく、不倫もまた、いつかは発覚するものですから、その時のためにどう対処するのかを想像しつつ、実際の案件を参考にして、不倫の誘惑から遠ざかっていただければ幸いです。夫婦の数だけ、愛の形があります。調査して不倫の事実が明らかになった時、人生においてどのような選択をするかは、その人次第です。しかし、不倫は地位も名誉も財産も、そして大切な家族さえも失い、家族や親類からは怨嗟の罵声を浴びせられる事態を引き起こします。できるだけ、そうならないように私は探偵社として、不倫に潜む夫婦間の問題を洗い出し、やり直しのきっかけとなるようアドバイスしています。正直、上手くいく場合もあれば、修復困難な場合もありますが、これからも現代を生きる男と女の関係、最新の不倫事情を、私たち探偵社は日々全力で追いかけ、ウォッチしていきたいと思っています。
探偵も驚いた! 超やり手妻の驚愕末路
2025/09/05
依頼者は結婚前に航空会社の国際線に勤務していた、元CAのヒロコさん。初対面の時からハキハキとして、お話も非常に論理的。頭の回転の速い、仕事ができる女性だった。「調査はこの金額でお願いします。もし証拠が取れなくても、途中でストップしていただいて構いません。それ以上はする必要がないと、私は思っていますので」と、支払える金額を明示し、自分の意思をはっきり伝えてきた。かなり合理的な考えの持ち主だった。「私が自分で素人ながらリサーチしたところ、夫には半年前から愛人がいます。恐らく年齢は30歳前後かなと。なぜなら車に30代の女性に人気のミュージシャンのCDがありました。普段の夫の趣味ではないのでピンときたんです。この予想が当たれば、悔しいですが、私と同じくらいの年齢ということになりますね」と、自分なりに夫の愛人について調査も行い、根拠のある予想も立てている。しかも、感情を交えずに冷静な分析に終始していて、これには探偵も舌を巻くほどだった。今回の依頼者であるヒロコさんは冷静沈着で、取り乱した様子が微塵も感じられなかった。「この女性はただ者ではない」調査後に、私はそれをさらに納得することになった。――二カ月の調査の末に判明した事実――依頼者から不倫の証拠が取れる可能性が高い日時を教えてもらっていたので、ムダ打ちすることなく、取り掛かることができた。さらに調査の当日、「あと十分くらいで、夫が家を出ます。黒のポロシャツに、カーキ色の短パンを穿き、黒いクロックスの靴を履いています」と、依頼者からメールが入り、夫を特定するのもスムーズだった。夫が乗った電車に乗り、探偵二人は態勢で尾行した。二人は同じ車両に乗り、もう一人の探偵は隣の車両でマークし、夫の行動を目で追いかけ見逃さないようにするのである。やがて夫は途中のターミナル駅で電車を乗り換え、郊外の駅で降車。向かったのは、歩いて七〜八分のところにあるマンションだった。夫はエレベーターに乗り五階で降りた。恐らくこの階に愛人の部屋があると思われる。そして数時間後、夫が五階の一室、五〇三号室から出てきたのである。「じゃあね、また来週来るから」と、夫が玄関先から室内に向かって話すと、中からは……。「またね」と、愛人と思われる女性の声が聞こえた。落ち着いた声の印象から、ヒロコさんが予想したとおり、30歳前後の女性ではないかと探偵は推測したという。いずれにせよ、これで愛人宅は分かったが、部屋への出入りが確認できたのは夫一人である。部屋の中にいる愛人は姿を現していない。つまり、今回入手できたのは、夫がマンションの部屋を出入りする写真のみで、愛人との決定的な証拠となる写真を撮るにはもう少し調査を行う必要があった。数日後、調査結果を伝えたところ、ヒロコさんは終始、淡々とした様子で聞いていた。「今回、愛人宅は特定できましたが、証拠写真を撮るにはさらなる調査が必要です」と、説明したところ、彼女はすぐにこう答えた。「そうですか、今回はお世話になり、ありがとうございました。これで有利な条件で、夫と離婚できます」ヒロコさんは、最初に言っていた通り、調査を延長しなかった。一般的に不倫の証拠写真が撮れていないと、夫と離婚交渉するにはこちらの方が不利になってしまう。私は心配になってそのことを説明したのだが、彼女は首を横に振った。「大丈夫です。私に考えがありますから」自信満々の彼女にどんな秘策があったのか、私にはとても気になっていた。――ヒロコさんの選択――アフターケアとしてヒロコさんに連絡を入れたところ、こんなメールが届いたのである。「調査後も、いろいろ御指導いただき感謝しております。この度、無事、協議離婚が成立いたしました」そこには慰謝料・財産分与とも、満額以上を手に入れたと書かれていた。「夫はあたかも不倫の証拠写真が撮れているかのようにふるまい、離婚協議書を交わす際、慰謝料の金額を空欄にして、ここに書いてくれる金額によっては、私が持っている不倫の証拠をすべて差し上げますと迫ったのです」なんと彼女はまるでポーカーのように夫の腹を探りつつ、大胆な賭けに出たのだった。これが妻の用意周到に準備した駆け引きと知らず、夫はまんまと愚かにも、空欄に最初「2千万円」と書いた。しかし、夫は上場会社の執行役員を務め、年収は3千万円もある。有価証券もかなり所有していることをヒロコさんは知っていたので、こんなはした金で妥協するわけにはいかない。「結婚式で仲人を務めてくれたあなたの会社の会長に、この決定的な不倫の証拠を持って行ってもいいのよ。なんて言うかしらね……」ヒロコさんは、夫の社内での人間関係や出世欲を十二分に承知しており、そこがつけ目だった。本当は入手した証拠ではなかったが、さも重大な秘密を握っているように、ヒロコさんは巧みに言葉を並べていった。その話術でどんどん金額が吊り上がっていき、最後に夫は「5千万円」と書いたという。本当は証拠が取れていないことを知らずに……。夫は自らの対外的な信頼を守ろうと金額を上げていき、ヒロコさんは最終的に決定的な証拠を持っていないにもかかわらず、離婚に際して慰謝料と財産分与として、合計5千万円を手に円満離婚に成功したのである。夫は経済的に窮地に陥ったばかりか、彼の離婚の噂に愛人ありとの噂がまたたくまに流れ、それが原因かどうかは判然としないものの、スキャンダルに敏感な大手の上場企業だったことも手伝って、子会社へ出向させられてしまったのである。この案件から私は、証拠が弱くても、やり方によっては効果的に活用できる場合があるという点を学ぶことができた。しかし、これはあくまで特別な例である。通常の人には、言い逃れできない不貞の証拠をきっちり取ることをおススメしたい。
フィリピン女性に入れあげ破産した夫の末路
2025/09/05
依頼者は都内に暮らす、資産家の妻・マサコさん40歳。ロングヘアでスタイルも良く、大きなサングラスをかけて探偵社を訪れた姿はまさにモデルか芸能人。話を聞いて専業主婦だと分かったが、19歳の時に夫とお見合い結婚したために、社会人として働いた経験がないという。喋り方もおっとりとして、実家もかなり資産家だったことから、それまで何不自由なく育ったお嬢様であった。「私は幼稚園から短大まで、一貫教育の女子校に通っていました。親が厳しくて、典型的な優等生でしたからね。夫が交際した初めての男性だったんです」と、依頼者はゆっくりと経緯を語り始めた。初めてのお見合いで美貌が見初められ、また両親も太鼓判を押すほどの良家の子息だったこともあり、愛情よりも家同士で決められた結婚であった。そんな苦労知らずのお嬢様のマサコさんが、探偵社に来たのはよほどの覚悟があってのことだろう。言葉を選びながら訥々と、夫の不倫に関して話し始めたのである。「私は二人の子どもたちを立派に育て、夫の親も大切にして、ずっと家庭のために尽くしてきました。なのに、なのに……」人生は、時として過酷な試練を与えるものだ。何不自由のない暮らしだったはずが、ある日突然、不幸のどん底に落とされることだってある。依頼者の場合も、まさにそうであった。「ここ一年、急に夫の帰りが遅くなり、土日もゴルフだと言って出掛けてしまいます。もしかしたら浮気しているのではないか、という思いがよぎるようになりました。そんなはずはないと自分の中で打ち消しても、疑いはどんどん膨らんでいったんです……」かつてのお友達に相談しても、同じお嬢様学校で育ったせいか、皆さん人を疑うことを知らない。しかも、未だに妻たるもの夫の半歩後ろを歩いて、出しゃばらずに、自己主張せず、良妻賢母の道を歩むべきだと意見されてしまったとか。バリバリ社会に出て働く女性がいる一方、上流階級と言われる層の人々の中には、旧態依然とした保守的な考えも根強く残っている。マサコさんは、「もう身近な人には相談できない」と感じて、弊社に連絡してきたのだという。といっても彼女は、これまで一度も夫の疑いを直接問いただしたことはない。面と向かって疑惑をぶつけても、夫は妻のマサコさんを何も知らないお嬢様と思い、なんだかんだと言いくるめてしまうのが目に見えていたからだ。中小企業ながら三代続く老舗メーカーの社長だった夫は、確かに仕事も多忙ではあったが、それを隠れ蓑にしているとマサコさんは感じていた。しかし、専業主婦の悲しさか、はたまた社会経験の無さによるものか、夫の不倫相手が一体どんな女性なのかさえ見当がつかないでいた。今回の案件は、彼女の人生にとって初めて出会った想定外の大問題だったのだろう。解決する術も知恵も、ましてや経験もない。私は、これをきっかけに、自らの考えを堂々と主張できる自立心を得て欲しいと感じていた。探偵たちにも、そうした思いを胸に調査をするよう指示し、綿密な計画を立てて実践していくことになった。――四カ月の調査の末に判明した事実――不倫の証拠はすぐに取れた。マサコさんが話していた通り、夫の帰宅が遅くなった原因は、愛人の存在だった。しかも愛人は、夫が常連になっている二軒のフィリピンパブの、それぞれに勤めるホステスだった。つまり、二人のフィリピン人ホステスと付き合っていたのである。週の前半にAというフィリピンパブを訪れ、そこに勤めるサブリナというホステスと酒を飲み、一緒に店を出てラブホテルで夜遅くまで過ごす。そして週の後半にはBというフィリピンパブにやって来て、今度はマリアというホステスと過ごし、帰りは同じようにラブホテルにしけこんでいた。一人をはかることなく、女たちと濃厚な不倫の時間を楽しんでいた夫は、よもや弊社の敏腕探偵たちに張られているなど、夢にも思わなかっただろう。夫と愛人がホテルに出入りする決定的瞬間は、いとも簡単にビデオカメラに収めることができた。さらに詳しい話を聞き出すため、夫がいない日を見計らい、当該フィリピンパブに潜入し愛人の一人サブリナと接触。チップをはずんだところ、彼女はすっかり機嫌を良くして夫との関係を詳細に話してくれた。その内容は驚くべきものだった。なんと、夫は愛人のお手当として、月50万円もの大金を現金で渡し、休日ともなると銀座の一流ジュエリーショップで、愛人にねだられるまま高額なダイヤの指輪を買い与えていたという。「あの人、とってもお金持ちね。ワタシのダーリン。いっぱいお金くれるから大好きよ」裏付けをとるため、後日、愛人と夫のデート現場を探偵が尾行。すると高級ブランド・ショップや老舗デパートを梯子し、様々な商品を買い与えていることが判明した。しかも愛人らは、夫と別れると、それらのブランド品やジュエリー類を、御徒町の買取センターに持って行って現金化していたのだ。なんともしたたかな女たちである。今回は調査の結果、夫の不倫の証拠や愛人の証言なども入手でき、くまなく情報収集することができた。こうした事実をマサコさんに報告したところ、毎月のお手当50万円の数字を聞いたとたん、たちまち顔色が変わった。「私は夫から生活費として、月に5万円しかもらっていません! 愛人の方が十倍も多いなんて、どういうことなんですか!」と、普段はおっとりとしたお嬢様のマサコさんが、初めて見せた怒りの顔だった。マサコさんにとって、愛人が二人もいたことより、家族の生活費とお手当の金額が許せないようだった。――マサコさんの選択――その後、事実を知ったマサコさんの両親が全面的に離婚を後押しし、有能な弁護士を雇って離婚調停を申請。すべてが白日の下にさらされては夫も観念するしかなかった。問題は慰謝料と財産分与である。話し合いの結果、結婚生活中に築き上げた財産は約2億円あり、法的な財産分与である二分の一に加えて、慰謝料をもらった。財産は国債や株式証券、不動産が主な資産だったが、即座に現金化したという。さらに愛人のホステスに対しても損害賠償請求裁判を起こしたが、彼女たちは強硬に抵抗。早々に帰国してしまった。さらには、こうした悪行が一族経営の会社幹部にも知られることとなり、先代社長であった親からは、天を衝くほど激怒され会社を追われるハメに。財産の大半も、社会的地位も完全に失ってしまったのである。それにしてもお嬢様育ちで社会人経験が一切ないマサコさんが、夫の不倫を知った途端、なぜ一転して強硬な態度を見せたのか、私なりに考えてみた。彼女はいわば何の不自由もない長夫人として、ちやほやされて暮らしてきた。しかし、そんな生活も、一皮むけば砂上の楼閣。夫は妻に対して愛情のかけらもなく平気で裏切り続け、しかも自分よりも愛人に湯水のごとく金費やしていたのが、女として許せなかったのだろう。お金で人ははかることは出来ないが、マサコさんにとっては、愛人より安く見られていたことが、遊郭に触れたのではないだろうか。現在、マサコさんは資産家の両親のもとで子どもたちとともに、悠々自適の日々を送っているという。
とんでもない女に引っ掛かった不倫夫の末路
2025/09/05
依頼者は女性お笑いタレントに似た、40代のふくよかな人妻・セツコさん。夫と結婚して10年あまり、可愛い子供に恵まれて絵に描いたような幸せな家庭を築くことができ、自分でも良妻賢母と言われるように努めてきたという。これ以上望むものはもう何もないと思っていた矢先、思いがけず、夫の不倫疑惑が浮上した。夫がお風呂に入っている間に何気なく携帯を見たところ、LINEで女性からのラブラブなメッセージが届いていたのである。「ホテルのレストランで食事し、部屋で激しく愛し合ってとても満足した……」というメッセージが送られていました。私は信じられず、ただただショックで、その夜は気分が悪くて寝込んでしまいました。私は毎日、一円でも節約して家計を切り詰めていて、豪華な食事など夫が連れて行ってくれたこともありません。それなのに夫は……。これまで築き上げた幸せが音を立てて崩れ落ちていきました」と、セツコさんは目を伏せた。優しい夫と結婚して、子育てにまい進する毎日は、依頼者が憧れてきた理想の家庭像だったのであろう。不倫調査を行うことに、当初、セツコさんは「妻としてふがいない行動か否か」とかなり躊躇していたという。しかし、このまま夫の行動を見過ごしていれば、家庭崩壊の危険にさらされるかもしれない。セツコさんは、夫に送られたLINEメッセージをスマホのカメラで撮影していたため、その文面を私も見ることができた。そこには、こちらが恥ずかしくなってしまうほど、赤裸々な表現でなまめかしいやり取りが残されていた。それを読んだ私は、「この女性は危険ではないか」とピンとくるものがあった。夫の不倫が一時のお遊びならさほど深刻にとらえる必要はないが、相手が悪質な場合は特に早めに処置するに限る。それは探偵社を開業してから数々の案件に接することで、身にしみて感じてきたことだった。「まずは数日だけでも調査してみましょう」という提案に、セツコさんも賛同してくれたので、早速、調査を開始することになった。すると、私の予感通り、そこには思いもよらなかった壮絶な展開が待っていた。――半年の調査の末に判明した事実――不倫相手との接触は、すぐに現行を押さえることができた。相手も妻のセツコさんと同じ40代で、見た目は髪が長くミニスカートでお色気ムンムンという感じだった。不倫相手の女は、夫と一緒にいる時は、やけに甲斐甲斐しく接していた。その時の映像を撮影することができたが、女の様子からこれは危険な人物ではないかと探偵たちもすぐに感じたという。不倫相手の女は、一体どんな人物なのか。まずはそこから明らかにしようと、探偵たちが聞き込み調査を行ったところ、なんと結婚・離婚を七回も繰り返していることが判明。しかも、いずれの結婚相手でもない、別の男性との子供がいることも分かった。その経歴からしても尋常な女ではない。調査を進めていく中で、この女と過去に結婚していた元夫の一人を探し出し、話を聞くことができた。すると、彼もまた散々な目に遭っていたというのだ。知り合ったきっかけはお見合いサイト。最初のドライブデートの時、いきなり車の中で女性から迫られて体の関係を持ち、天にも昇る気持ちになって言われるがままに結婚したという。それほど夜のテクニックはすさまじく、毎日こんないい気持ちになれるならと結婚したらしいのだ。しかし、結婚した途端、女は豹変した。一緒に暮らす元夫の母に納屋で暮らすよう命じ、一家のお金はすべて女が牛耳るようになった。日に日に憔悴していく母に、元夫が耐えられなくなり離婚して欲しいと切り出すと、女はヒステリックに暴れまくったという。毎日狂暴なまでに自分勝手な女に振り回され、元夫は精神的に限界まで追い詰められてしまった。再び恐る恐る離婚を切り出すと、女は待ってましたとばかりに、離婚する条件として5千万円を要求。元夫は先祖代々の土地を売り払い、要求されるまま現金5千万円を女に渡し離婚できたという。「常識なんか通用しないとんでもない女です。あの女は金だけが目的なんですよ。関わりを持っただけで、私は人生をめちゃくちゃにされました」私の直感通り、不倫相手の女は、問題だらけの要注意人物だったのだ。数日の調査で女の悪行を裏付ける証拠を、かなり多数入手することができた。しかも、一般的な不倫ではなく、相手はかなりのいわくつきである。私は、結果報告の際には、依頼者のセツコさんだけでなく夫も呼んで真実をつきつけた方がいいのではないかと提案。セツコさんも賛同し、勇気を出して、「ちょっと、ある人と相談したいことがある」と言ってもらい、夫も一緒にやってくることになった。もちろん、何の相談なのかは詳しく話さずに、子どもの進学のことだとごまかしていたようだった。しかし、真実を知っても夫が目を覚ませばよいのだが、不倫相手の女に完全にいれあげている場合は、何を言っても聞く余地はないであろう。今回は女がかなりの曲者だけに、そのあたりのも十分極める必要があった。弊社へやってきた夫は、探偵社の看板を見て訝しげな表情であったが、ここまでくればこっちのものである。相談室に通し、「実は……」と切り出した。セツコさんも、すでに腹をくくっているらしく、私の説明に対して堂々と言葉を補足してくれた。私と探偵たちは、夫が付き合っている不倫相手が、驚くべき人物であることを元夫の証言も交え、さらに裏付けとなる客観的証拠も見せて報告していった。しかし、夫の反応は頑なだった。「彼女はそんな女じゃない! 何かの間違いだ!」と、夫から出てきた言葉は、不倫相手の擁護だった。元夫の証言についても、頑として信じようとしなかったが、さすがに七回もの結婚・離婚はまったく知らされておらず、その証拠を見せる手は小刻みに震えていた。「……すぐには受け止められない。私が直接聞いて、それから妻とのことを話し合いたいと思います。離婚するにしても責任はちゃんととりますから」夫は実に理性的な男だった。客観的な証拠から見えてくる確かな真実と、女の断ち切れない未練の狭間で揺れ動く心の葛藤が、その顔にはっきりと浮かんでいた。セツコさんは、夫の態度に動揺していたようだったが、ここまで来たら最後まで戦う覚悟も同時に感じられた。夫は女と直接会って話すというので、隠しマイクを取り付けさせて欲しいと頼んだところ、快くOKしてくれた。事態は、いよいよ最終章を迎えつつあった。その日の内に女に連絡をとり、二人がよく知るファミリーレストランで落ち合うことになった。探偵たちも夫から離れた場所に散らばって待機し、様子を見守ることになった。妻のセツコさんは、私と一緒に駐車場の車の中で、隠しマイクの音声を聞きながら待っていた。約束の時間、女が店内に現れ、さも久し振りの邂逅だとわんばかりの態度で、夫の向かい側の席ではなく、ピッタリとくっついて耳元で何やらささやきだしたのである。「もうあなたがいなくって一分も我慢できない」「今夜は帰さないわ」「いつものように好きにしていいのよ、今夜も……」聞くに堪えない言葉が次々に飛び出す。私とセツコさんは、車の中で女の言葉を聞きながら、呆れてため息ばかりついていた。それにしても男を骨抜きにするテクニックの巧みさは、どこで覚えたのだろう。それとも天性のものなのだろうか。ともあれ女は、しばらく挨拶代わりの妖艶な言葉を夫に投げかけていたが、彼は少しも動じず、いきなりこう切り出した。「七回も結婚・離婚しているというのはホントなのか?」突然の思いがけない問いかけである。女は一瞬驚いたようだったが、夫のただならぬ様子を感じ取ったのか、手を引っ張って店を飛び出していった。二人の様子を注視していた探偵たちも後に続き追いかけた。二人の姿を発見したのは、なんと、なぜか無人の交番だった。それを明るくはない蛍光灯の下で、やおら女は洋服を脱ぎ捨て全裸になり、夫にSEXを求めていたのである。何を意図して、こんな行動に出たのか誰も理解できなかった。もしこの瞬間に警官がやってきたとしたら、いろいろ事情を聞かれるだけならまだしも、何らかの罪に問われる可能性すらある。さすがにこの行動に夫もドン引きし、絡みつく裸の女の腕をむしりとって、無言で交番を後にするのだった。追いすがる女は絶叫し夫を引き留めようとするのだが、夫は振り向きもせず急ぎ足で夜陰に紛れていった。――セツコさんと夫婦の末路――その夜遅く、妻のセツコさんと夫の話し合いの場が設けられた。夫は女の素性が分かったらしく、交番での出来事をこう話してくれた。「彼女は交番で裸になって、私に抱き着いてきました。あれは行為の最中、警官に目撃させレイプされたと訴えようとしているんだとピンときました。これまでにもおかしいと思うことは沢山ありましたけど、欲望に負け、ずるずると関係していたんです。でもはっきり分かりました。この女といたら殺されるかもしれないと」その後、夫には愛人が受取人となる多額の生命保険がかけられていたことも判明した。不倫調査を行っていると、時折あくどい手口で男を籠絡し、金を要求する女性にハマっている事例を目撃することがある。このような時は依頼者と夫が気の毒でならないが、深みにはまって大怪我する前に早く気づかせてあげることが大切だと痛感している。今回はその最たる例だった。幸せな家庭を突然襲った、根っからの悪女。運が悪かっただけなのか、それとも引っ掛かった夫が悪いのか。今回の案件では、弁護士を通じて愛人に、不貞行為への損害請求はしないかわりに、今後一切会わないことを誓約させた。すべてが落着した後、セツコさんから夫が改心し謝罪した旨の連絡を受け取ったのである。「すべて僕が悪かったので、許してほしい。お前と子どもたちともう一度、一から出直して裏切っていた分、もっと幸せにしたい」と、頭を下げてくれたという。セツコさんは裏切られた経験をしても、安易に離婚を選択せずに夫を信じ続けた結果、幸せを掴んだのだ。これでもう夫は一生、セツコさんに頭が上がらないだろう。それもまた妻の賢い戦略なのかもしれない。
霧の積もりに積もった、夫への恨み辛みの末路
2025/09/05
依頼者は60代の主婦、ナツミさん。肌に刻まれたシワとやつれた印象から、実際の年齢よりも上に見え、ぱっと見では70代に見えるほど、彼女の人生は夫に翻弄され続けてきたという。「20代の頃から夫の不倫に悩まされて、苦労してきました。いつか浮気の証拠を掴んで離婚してやろうと、ただそれだけを生き甲斐にしてきました」最初に連絡があった時から、「夫の浮気調査をお願いしたい」とナツミさんは明確に話していた。実はこういったケースは意外に少ない。夫が不倫しているのではないかと疑いを持っていても、まずは相談をしてから調査依頼を決断するのが通常のパターンである。しかし、ナツミさんは始めから調査を依頼しようと、固い決意をやってやって来た。それだけ積もりに積もった壮絶たる感情があったのだろう。私がナツミさんの話を聞きながら、これまで重ねてきた歳月の苦しみや悲しみが伝わってくるようで胸が痛くなった。「これまで夫の不倫が分かっていても、子どものためにと目をつむり、我慢に我慢を重ねてきました。手塩にかけてきた子どもたちも独立し、お金にゆとりができた今こそ、離婚して復讐してやりたい」私は「離婚して復讐してやりたい」という言葉を聞き、それはナツミさんの紛れもない本音であろうと思った。そして、ナツミさん曰く、現在、夫は会社を定年退職し、いわば毎日が日曜日であるはずなのに、未だ女性の影が付きまとうというのだ。「会社を辞めて用事がないはずなのに、夫は何時間か出掛けることがよくあります。女性に会って、また不倫しているに違いありません。早く調査をお願いします」と、即決で依頼が決まった。何年も前からこの日のために準備して、不倫調査のための費用も貯めてきた。ナツミさんの苦渋の思いを晴らすためにも、夫の不倫の証拠を掴むのだと、私と探偵たちは心を一つにして調査を始めることになった。――二カ月の調査の末に判明した事実――常日頃から探偵たちが調査によって目にするのは、真実である。それは、時として依頼者の予想や願望からかけ離れてしまうことがある。連日、探偵たちが夫の素行を調査し、どこの誰と会っているのかも一瞬の隙も無いよう徹底的にマークした。夫はスラリとして背が高く、上品な老紳士風でスポーツマンタイプ。外見からすると、女性にモテてきたのも納得できた。探偵たちは愛人との接触を想定し、夫の外出時には必ず尾行した。調査を始めて二カ月後、夫の身辺に女性の影はなく、ナツミさんが怪しいと話していた、「何時間か出掛けている」のは近所を散歩しているだけであった。女性との接触は、その散歩中にご近所の人たちと挨拶を交わす程度。つまり、ナツミさんが望んでいることと、全く逆の事実が明らかになったのである。それでも真実は真実。現実をきちんと見つめることが大切である。私はナツミさんのまっすぐな気性からして、しっかり受け止めながらも、この段階で完全なる潔白であるとの調査結果を伝えた。するとナツミさんは、よほど悔しかったのだろう。私に八つ当たりのような罵声を浴びせてきたのである。「あなたたち、それでも探偵のプロなの! いい加減な調査でお茶を濁そうなんて、そうはいかないわ! 夫に女がいるのは、分かっているんだから! じゃないと、私が耐え忍んできたこの40年間はどうなるの!」妻は予想の調査結果に、頭の中が混乱しているように見えた。思うような結果が出ずに、その悔しい思いを私たちにぶつけたい気持ちは痛いほどわかる。私は、ナツミさんが気の毒でならず、反論することさえできないでいた。しかし、これで終わりではこちらとしてもすっきりしない。そこで、私は、こんな提案をナツミさんに申し入れた。「しばらくの間、ご主人の様子を見ていただいて、また不倫の疑いが出てきた時に、もう一度調査を入れてはいかがでしょうか?」しかし、ナツミさんにとっては保険のようなもので、すでにこの時から依頼する気満々であった。案の定、数カ月後、再びナツミさんから浮気調査の依頼があった。「私が同窓会で一泊する予定なので、その時を狙って夫は愛人と会うに違いありません。尾行をお願いします」と、今度は不倫する可能性が高い日にちを指定してきた。またある時は、ゴルフだと言って夫が一日出掛けた時の動向を調べてほしいと連絡が入り、急きょ探偵たちが現場に駆け付けた。他にもピンポイントで狙って、探偵たちが張り込み、愛人との接触を待った。だが、その度に結果はシロだった。度重なる緊急の依頼に探偵たちもいささか疲弊していたが、ここでできないとは言えない。こちらが探偵としての意地があった。そして、最初の調査から半年ほど経った頃、ナツミさんが友達と一週間ほど海外旅行に行くので、その期間を狙って浮気をするに違いないと調査を依頼してきた。無駄足に終わることも分かっていたが、依頼者との約束は必ず履行するのが我が社のモットーである。妻のいない間、探偵たちは調査対象者の夫に24時間態勢で密着。すると張り込みから三日目、いつになくおしゃれをして、夫が家を後にしたのである。探偵たちがすかさずその後を追い掛けたところ、なんと銀座の喫茶店で妙齢の婦人と待ち合わせているではないか。ついにその瞬間をキャッチできたか。やがて二人は、銀座のレストランで食事をし、その後、信じられないことだが妻のいない自宅に女性を連れ込んだのである。ご婦人が帰ったのは、翌日の朝だった。探偵たちは、その一部始終をカメラに収めていた。すっかりシロだと思っていた私も、この結末に驚きを通り越し、まだまだ真実を見通せない自分を恥じた。――ナツミさんの選択――後日、私からの連絡を受けて、嬉々として探偵社に訪れたナツミさん。ようやく不倫の証拠を掴めたことで本当に嬉しそうだった。何はともあれ、早速、状況について説明し、映像を見ていただくことになった。大型のモニター画面に現れた夫のおしゃれな恰好に、ナツミさんは「まあ憎ったらしい!」と、叫んで怒りを露にした。ところが問題の女性に親しげに話し掛ける様子や、自宅へ入る瞬間の鮮明な映像を目の当たりにして、ナツミさんの表情は、どこか落胆にも似た様子に変わっていった。私は、夫の不倫がはっきりし現実のものとなったことで、本当は傷ついてしまったのではないかとナツミさんの心を慮った。しかし、証拠映像のすべてを見終わって、ナツミさんが告げたのは……。「……これは、嫁いでいるうちの娘です。私の留守中、時間があったら夫の様子をチェックするよう言っていたんです」と指摘され、私も調査した探偵も言葉もなく呆然とするしかなかった。しばし、相談室は静まり返り、ナツミさんもまた何をどう言っていいのか、言葉を探していたような気がする。そして――「みなさん本当にご苦労様でした。私がわがままで振り回してしまったみたいねえ。岡田さんもありかとう。ごめんなさいね……」これまでまた振り出しに戻ってしまうのか、また文句を言われるのかと、戦々恐々としていた私だったが、ナツミさんの今までの憤慨した表情はやわらぎ、優しい顔になってこう話し出した。「若い頃ならいざ知らず、夫ももう歳ですし、女性関係はどうやら卒業したようね。今回は、そのことがはっきりしただけでも救いよね」あれほど怒りに震え、積もりに積もった恨みを吐き出していたナツミさんも、憑き物が落ちたように心の底から納得したようだった。弊社を後に帰途に就いたナツミさんの後ろ姿を、私はいつまでも見送りながら、これから夫婦仲良く、まだまだ長い余生を充実させていって欲しいと願わずにはいられなかった。
妻にSEXを求めない夫の末路
2025/09/05
結婚して10年、年齢はすでに40歳を超えているのだが、丸顔でポッチャリしているためか、実年齢よりも幼く見える依頼者のキミコさんは、初対面で朗らかな笑顔を絶やさず、深刻な悩みを抱えているようには見えなかった。しかし、来社して早々、私にきっぱりとこう言い切ったのである。「夫は間違いなくゲイです。私とは偽装結婚だったのではないかと疑いを持っています」聞けば夫とは親戚の紹介でお見合いをし、短い交際期間を経て結婚。交際中から夫は妻に触れようともせず、結婚後も現在に至るまで肉体関係はほとんどないという。それならば、なぜ結婚しようと思ったのか。その答えを聞こうとする前に、キミコさんのほうからこんな話をしてくれた。「結婚する時は、夫は精神的な公務員なので、親戚からもとても評判がよく、この人なら理想的な夫だと思いました。しかも見た目も学歴も、収入もとても良かったので、理想の男性だったんです」キミコさんはバージンではなかったが、男性経験も少なく、結婚前に体の関係を求めて来ない夫に「堅い人なのだ」と前向きにとらえていたという。晴れて夫婦になれば、彼も男なので当然、夫婦としての営みを行うに違いないと考えていた。しかし、それはただの妻の思い込みでしかなかった。結婚式を挙げて、初夜を迎えても夫は指一本触れようともせず、一つ屋根の下で住むようになっても身体を求めてこない。キミコさんも、不安になって「夫婦なんだから、ちゃんと結ばれたい」と尋ねたところ、「仕事が重なってね、忙しくて疲れているんだ」と言うのが常。それでも新婚当時は、半年に一度程度、キミコさんが求めると仕方がなく応じたこともあったというが、それもどうやら中途半端に終わってしまい、今では皆無の状態となっているとか。そんなキミコさんに追い打ちをかけるように、周りからは「お子さんはまだ?」と聞かれることが多くなり、一人思い悩むようになっていた。「子どもなんてできるはずがありません。そもそも子どもができることをしていないのですから」夫から求められない原因がキミコさん自身に魅力がないからなのかなと思い、エステに通ったり、派手な下着も買って身に付けてみたり、いろいろ努力はしてみたのだが、すべて徒労に終わってしまったという。妻は誰にも相談できず、悶々と悩んで眠れぬ夜を過ごしてきた。そのうち、夫が肉体関係を求めてこないのはおかしいと思い始め、いろいろ考えた末に行き着いた結論が、「夫はゲイだから女性の自分に関心がない」というものだ。「夫がゲイという証拠を取ってください」と、キミコさんは真剣な目で言ってきた。客観的に見てもキミコさんは、ポッチャリはしているが決して魅力がないタイプではない。むしろグラマーで笑顔が可愛い、男性ならSEXアピールを感じずにはいられない女性である。キミコさんの悩みを聞けば聞くほど、なぜ夫は体の関係を持とうとしないのか、私は不思議でならなかった。「夫はゲイではないか説」は、確かに説得力のある答えではあるが、この段階では確証はない。探偵たちには、そうしたキミコさんの疑いを説明しつつも、予断無き調査を冷静に遂行するよう命じ、すぐに夫の身辺に張り付くことになった。――三カ月の調査の末に判明した事実――調査を開始して二週間、ずっと夫を尾行していたのだが、仕事が終われば自宅へ直行。たまに同僚と飲みにでかけることはあっても、怪しい点は皆無であった。もちろん、特定の愛人や俗っぽい付き合いも無い。「もしかしたら、完全なシロか?」探偵たちの間で、そんな思いを共有するようになっていった、ある日のこと。仕事終わりを張り込んでいた探偵は、いつもと違う行動に「おやっ?」と感じたという。帰宅する方向が違うのだ。一定の距離を保ちながら尾行したところ、なんと夫は新宿二丁目のゲイバーへ入っていった。しかもたった一人で。何喰わぬ顔で探偵も入っていくと、夫はカウンターに腰掛け、お店のママ(と言っても男性であるが)と親しげに話していたのだ。誰が見てもお店の常連であるのは間違いない様子。その夜は、バーで二時間ほど過ごし、帰っていった。以後、調査を行った二カ月の間、お店には数回顔を出していたが、男性との接触は確認できず。もちろん女性と会うこともなく、行動としては極めて真面目だった。バーでは酔っぱらわない程度にカクテルを飲み、飲みすぎてへべれけになることもない。同性愛者が集まることで有名な新宿二丁目に月入りしているだけで、ゲイである確証はついに出てこなかった。そこで探偵は、常連として通うゲイバーのママに、それとなく夫について聞き込みを行ったところ、意外な事実を知ることになった。「ああ、あの彼ね。あの人、とても悩んでいたわ。インポなんだって。だったらゲイになりなさいよって言ったんだけど、笑ってごまかされちゃったわ」ついに衝撃の新事実をキャッチした瞬間だった。10年の夫婦生活の中で妻と肉体関係がほとんどなかったのは、夫の勃起不全が原因だったのだ。精神的なものか肉体的な疾患なのか、きちんと病院に行って治療すれば治るかもしれないのだが、恥ずかしさから一人悶々としているらしい。しかしゲイバーのママにだけは、唯一、そんな悩みを相談していたというのだ。「私なんか、外見は男だけど心は女でしょ? だからなのか下半身の悩みを打ち明けてもコンプレックスを感じなかったのかもね」ママの言葉を具体的に書き添えた報告書を見せながら、キミコさんに今回の調査結果を説明したところ、彼女はがっくり肩を落としてポツリとこう漏らした。「そうですか、ゲイじゃなかったんですか……」探偵社では夫の不倫調査を依頼され、実は男性と関係していたという結果は、割合よくあるケースだ。多くの妻が「夫は女性より男性が好き」だという現実を知ると、立ち直れないほどのショックを受けるのだが、今回のケースは全く逆のパターンだった。キミコさんは正常な夫婦の営みがある生活を望んでおり、もし夫がゲイだったら、それを理由に離婚を迫ろうとしていたらしい。一連の調査結果を聞き終えた時、キミコさんは何かを悟ったように、こう答えた。「そうですか、分かりました」結婚生活には、様々な形があってしかるべきだと思うが、肉体関係を望む妻とそれに応えられない夫では、関係を維持するのは難しい。ただ今回は、きちんと治療すれば改善できる余地は残されているのだ。私は、夫のプライドを傷つけないよう治療することを促してはどうかと提案したのだが、キミコさんの反応はいまひとつだった。――キミコさんの選択――アフターケアとして連絡している中で、キミコさんから私宛にメールが届いた。弊社では、調査を行った人へのサービスとして、調査後も相談を受け付けている。それによれば、調査結果を聞いてから即座に離婚調停を開始したところ、夫は離婚を待っていたかのようにすぐに承諾してくれたという。夫にとってもSEXのない夫婦生活が、重荷になっていたのかもしれない。お互いにとって、ここから再スタートを切る方が、最善の選択だったのだろう。それからしばらくして、キミコさんは別の男性と再婚し、可愛い子供を授かったとの連絡を受けた。「探偵社に調査したことが背中を押してくれました。次のステップに進むきっかけになったと思います。本当にありがとうございました」との内容だった。探偵社にはいろんな人たちの人生模様に触れる機会に遭遇する。このケースは不倫ではなく、依頼者が求めていた結果を出せたわけではないのだが、真実を明らかにすることができ、これからへの未来設計と照らし合わせ、探偵社の調査が、その助けとなったならば、夫婦それぞれにとって、良き道標としての役割を果たせたのではないか。探偵の調査が幸せの第一歩になることを、これからも目指していこうと誓った案件だった。
幸せは幻覚? 夫と愛人六人の末路
2025/09/05
依頼者は40代後半の専業主婦、サワコさん。初めて面会した時は、洗練された装いで礼儀正しく、一言で表現するならば、「品行方正な山の手の奥様」風の女性だった。夫は職場恋愛で20数年前に結婚し、以来、三人の子供たちにも恵まれ、ごく平凡ながら幸せな家庭生活を営んできたという。経営コンサルティング会社に勤める夫は、いわば典型的な仕事人間。家事や育児は妻に任せっぱなし。ただしきっちり稼いでくるから「文句は言うな」というタイプ。確かに収入も良く、生活に困ることは皆無であり、年に一度は家族で海外旅行に行く余裕もあったが、夫はそんなイベントに同行したことはほとんどなかった。平日の帰りはほぼ午前様、出張も多く、三日も四日も「地方出張」で帰ってこないことも少なくなかった。そんな夫のサボタージュに、さすがのサワコさんも「おかしい」と感じ、その気持ちは日々少しずつ膨らんで、ついに探偵に相談する決意を固めたというのだった。さらに話を聞いて驚いたのは、サワコさんの心に芽生えた疑心は、実は結婚を前提に交際している頃からだったというのである。「この20年間、ずっと頭に引っかかっていたことがあるんです。夫と結婚するとき、同僚の皆さんから『大丈夫なの?』と心配され、夫には私以外の女性がいると忠告されたのです。私以外、会社の誰もが知る公然の秘密だと分かり、思い切って夫に尋ねました。すると、「君と付き合う前の彼女のことも言っているのだろう。もう別れたから」と言うので、私はその言葉を信用して結婚したんです」しかし、サワコさんの心には、ずっと夫への微かな疑いが拭い去れないまま残されていた。今では、夫の普段の行動すべてが不審に思え、信じようと思っても、もう元には戻れなかった。それならば自分が安心するために事実を調査して、客観的に白黒決着をつけたい。できれば疑いがすべて思い過ごしで、逆に不倫の証拠が出ずに、夫の潔白が証明されることを願っているようにも感じられた。しかし、ヒアリングをした私の感触は「完全なるクロ」。夫と愛人が嘘を重ね、徹底した調査をすることになったのだが、この後、百戦錬磨の探偵たちも夫の大胆不敵な行動を前に、愕然とするしかなかった。――半年の調査の末に判明した事実――結果から言うと、夫にはなんと六人もの愛人がいることが判明した。一人は結婚前から交際してきた20年来の愛人。年齢は50歳前後で、洋服や化粧が派手目の女性だった。週に二度ほどのペースで愛人宅を訪れ、夫が来る日には、恐らく手料理を振る舞うのだろう、いそいそとスーパーで材料を買ってから帰宅していた。この愛人こそが、結婚前、周囲から忠告を受けていた女性だったのではないか。愛人はそれだけではない。夫は学生時代に合唱部に所属し、現在も忙しい合間を縫って、社会人のコーラスサークルに通っている。そのサークルに二人の愛人がいることも判明した。一人は40代の独身OL、もう一人は30代の既婚者であった。サークルの練習が終わると、二人のうちどちらかと一緒に練習場所を後にするのが習慣となっていた。いわばセレブのような間柄で、二人の女性も納得の関係のようだった。コーラスの練習の後は、ラブホテルに入るのがお決まりのコース。夫と愛人が腕を組んで、ラブホテルに入る瞬間を、弊社の探偵がばっちりとカメラにおさめることができた。他にも、夫には風俗嬢の愛人が三人もいた。関係がどれくらいの期間、継続しているのかは不明だが、風俗嬢はいずれも20代なので、他の愛人たちに比べて交際は短い期間だと思われる。こちらはお店に行く場合もあったが、主に外で会い、やはりラブホテルに直行する。時には買い物に付き合うこともあり、支払いはすべて夫が行っていた。それにしても夫の愛人たちは年代も容姿のタイプも様々だったが、合計六人もの愛人がいたのである。そのあくなき絶倫ぶりには、男性探偵たちも信じられないと驚嘆の声を上げていた。さらに、サワコさんが全く知らない事実も明らかになった。実は夫は隠し財産として、二棟のマンションを所有していたのである。たくさんの愛人を持ちには、当然、お金が必要だ。そのためにはせっせと投資して、利ざやでさらに投資し、二棟のマンションを持つまでになったのである。愛人と隠し財産、そのどちらも暴露されれば、サワコさんは把握していなかったどころか、想像さえもしていない事実だった。結婚生活20年の間でこれだけの秘密がバレなかったのは、サワコさんの人の良さと、夫の口の上手さゆえであった。調査結果を伝えるとサワコさんは、声にならない唸りのような小さな悲鳴を上げ、突然、堰を切ったように泣き崩れた。「もしかしたらとは思ってはいましたが、まさかここまでとは……。信じていた私がバカだったんでしょうか?」ショックが大きかったのであろう、サワコさんは相談室のテーブルに突っ伏し、嗚咽してしばらく立ち上がれなかった。夫が不倫していたという事実、それも六人も愛人がいるとは。受け入れがたいのも無理はない。表面的には幸せそうな家庭のはずが、一皮むけば夫は不倫三昧で、妻に愛情のかけらもなかったのではないか。青天の霹靂とは、まさにこのようなことを言うのであろう。最初、サワコさんは泣いてばかりいたが、調査結果について説明を聞いているうち、だんだんと正気を取り戻していったようだった。そしてようやく冷静になったのか、はっきりと私たちにこう話した。「私は騙され続けていたんですね。こんなひどい仕打ちをされるなんて、絶対に夫を許しません。夫と同じお墓に入りたくないです」私と同じ女性としてサワコさんの気持ちはよく分かる。心の底から信じ愛していた人に徹頭徹尾裏切られていた事実を突きつけられて、絶望しない方がおかしい。私は離婚の際は、今回の調査結果が確固たる不貞の証拠となり、恐らく有利に働くであろうこと告げ、場合によっては優秀な弁護士さんを紹介するつもりだった。ところが、「離婚」という言葉が飛び出したことで、サワコさんの顔に一瞬とまどいの表情が浮かんだのを私は見逃さなかった。これからどうするのか、現実は辛い選択を迫っている。――サワコさんの選択――それから数カ月して、サワコさんから連絡が入った。自分の気持ちの踏ん切りがついて、離婚を前提とした別居生活に入ったというのだ。私たちの探偵の仕事は、すでに終了しているものの、それで終わりというわけにはいかない。ともかく最後まで依頼者の味方でありたいというのが、私の信念だった。優秀な弁護士さんを紹介し、離婚調停へ進むための相談を受け、証拠の数々も明確な報告書として提出する段取りも整えた。突然の別居を経てから裁判所への出廷、弁護士さんからの連絡、そして調停と夫にとつては、何が何やら分からぬままに離婚させられてしまったような感じだったのではないか。それだけ準備を整え、気丈に進めていったのである。調停で夫の乱脈な女性関係が明らかとなり、調停員の方々も、これにはドン引きしたらしく、夫に反論の余地はなかったようだ。サワコさんは、慰謝料と財産分与として、夫所有の二棟のマンションをそっくりそのまま譲り受けることになった。さらに不倫相手の女性の内、結婚前から交際していた女性には200万円、コーラスサークルの女性二人には100万円ずつ損害賠償請求を行った。交際期間の長い彼女はあっさり応じたが、コーラスサークルの女性には泣きつかれ、半分の金額で手を打ったという。これで一応の決着を見たのだが、私は一抹の心配事があった。20年も共に暮らしてきた夫と別れて、サワコさんは後悔しているのではないか。そして全財産を失ってしまった夫に同情してマンションを返すなどと言うのではないか。しかし、そんな私の心配は杞憂に終わったのである。「岡田さん、今私、三つ目のマンションを買おうと思ってるんです。不動産投資って、面白いですね。実は不動産投資会社の担当者、イケメンなんですよ……ウフフ」私はサワコさんからの嬉々とした近況報告の電話を聞きつつ、心の中で「くれぐれも男には騙されませんように」と願わずにはいられなかった。
行く着く先は天国か地獄か 予測不可能な意外な末路
2025/09/05
「事実は小説よりも奇なり」と言われますが、二〇〇二年に探偵社を設立してから、約一万六千件もの「不倫調査」の相談を受けてまいり、その間、数多くの信じられない事案に接してきました。中でも印象的だったのは、不倫の発覚によってすべてを失い、名誉も人も社会的信頼も地に落ちてしまい、絶望の淵に立たされた人、一方、不倫の事実を受け入れ、逆に夫婦の理解が深まって円満になった人など、時折こちらの予想をはるかに上回る末路に遭遇しました。一口に「不倫」と言っても、男女の愛憎の複雑さは、答えのない迷路のようなものです。男と女の数だけ、千差万別。怒り、嫉妬、恨み、悲しみ、憤り……など、様々な感情が渦巻き、一つとして同じものはありませんでした。そこでまずは、私が今までに探偵の立場から目撃してきた、不倫をめぐる壮絶な末路の数々をご紹介したいと思います。
他人の人生を狂わせる内偵調査
2025/09/05
内偵調査での調査の発覚は、ターゲットの耳に入るよりも、張り込み相手からの告げ口がきっかけとなることが多いのです。「あそこに怪しい人がいるよ」「あなた、調べられてるよ」聞き込み相手や親族などの軽い人の口から、ターゲットへと意図せず情報が漏れてしまうことがあります。しかしながら、告げ口されることで、相手の素性を知ることができるのも事実です。完全に口が堅い人、あるいはターゲットと懇意にしている人、または聞き込み相手の素性までも知ることができるのです。調べる側にとっては、これもまた一つの収穫といえるでしょう。肝心なのは「こういった誰が口を開くのかを特定できないこと」です。人の口を完全にコントロールすることなどできませんし、どんなに気をつけていても、口の軽い人は存在します。それをおそれていては調査は進められないのです。まさに探偵業の宿命といえるでしょう。知人や親族への聞き込み調査が、時に依頼者や調査対象者の人生を狂わせてしまうほどの大きなトラブルにまで発展することもあります。
近隣住民を味方にせよ!
2025/09/05
数日間にもわたって同じ場所で張り込みを続けていると、必然的に近所の目に多く触れてしまいます。それゆえこういったケースでは、住民による通報などで現場環境が壊れてしまうこともあります。張り込み撤退を余儀なくされてしまうのです。これに15年前くらいにおこなっていた調査でも、まさに同じようなシチュエーションでした。この時の私は道幅の狭い住宅街に立つ、アパートの住民の1人であるターゲットの名簿を調べているところ。あるパートナーと調査を開始した直後、初老の男性に注意を受けてしまいました。まさに同じような状況だったのです。「アンタさ、昨日もここにいたよね?○○さんの調査でもしているのかい?」その人の冷ややかな目線に心が折られそうになりながらも、私は見張りを続けていました。そして2日目の調査でも同じように声をかけてきたのです。これには内心びっくりです。調査をしていることがバレたことに驚いたわけではありません。単純にこの男性が敵意を感じさせず、私を認めてしまうような調子で話しかけてきたことです。「あの人は以前も探偵をやってきて、○○さんを調べていたんだよ。あの人はいろいろと変わり者で通っているわけ」まさに調査中に告げ口されてしまったような気分でした。敵意がなかったからこそ、逆に驚かされたのです。そして私が口ごもっていると、男性はさらにこう付け加えました。「実は、以前も探偵さんがここに来て、○○さんを調べていたんだ。あの人は変わり者で、近所でも評判が良くなかったから、今じゃ誰も口を利かないね」このセリフを聞いた瞬間、私は彼を味方として判断して、少しばかりの嘘を交えながらも探偵であることを明かしました。間違いなく、近所に事情を喋ったほうが、快適に心置きなく張り込みができると判断したのです。